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「昭和の子」第38回


 大石君と毛沢東のこと

 中国帰りの大石浩行君のお父さんは、何でも旅順工大の教授をしていたが、後に旧満州で事業を興し、成功をおさめたらしい。
 そのせいだろう。戦後は財産はすべて没収されて一文無しになり、一家はすぐには帰国できず、しばらく中国にとどめられ、やっと日本に帰ってきたという。
 一家と言っても、お姉さんは北京放送の日本向けのアナウンサーとしてまだ中国にとどまっていた。一家が日本でそろったのは、昭和も三十年代後半になってからだった。そのお姉さんの声を聞いてみたいと北京放送の周波数にラジオを合わせてみるが、女性アナウンサーの声は聞こえても、名乗るわけではないからさっぱり見当もつかなかった。
 その大石君と新中国に関心があったので、放課後は毎日のように彼と過ごしていた。彼は毛沢東革命についても詳しかった。毛沢東の『実践論』『矛盾論』の内容を諳んじていて、いろいろ教えてくれた。
 あわてて書店に走り『実践論』や『矛盾論』に目を通した。「ふん、ふん、なるほど」とは思ったが、それよりも、あのパールバック描くところの『大地』や魯迅描くところの『阿Q正伝』の主人公たちが、革命によってそんなに変わったのか、という感慨の方が強かった。あの中国を解放、新中国を建国したんだからやはり「毛沢東は偉い」と感嘆した。
 大石君は中国側から教育されたのだろうか、「実践論」や「矛盾論」には詳しかったが、日本にも革命を“輸入”しようなどという魂胆は皆目なかった。そんなことより他のクラスの女性への片思いに悩んでいた。

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